谷騏(Good Gi)は AI サーバーおよび HPC ラック向けに、チューブ材とケーブル保護部品を供給しています。今回取り上げるのはラック内の一箇所、ドリップトレイ(液受けトレイ)のドレンホースです。使用しているのはシリコーンチューブ SRT。
液冷ラックのシール仕様は年々厳しくなっています。それでもデータセンターの設計側は「絶対に漏れない」という前提を置きません。漏れやすい箇所にドリップトレイを一層追加し、そこからホースで液を外へ導きます。ある国際的な電源メーカー(以下、D社)と谷騏の取引品目には、このホースが含まれています。
ドリップトレイが入る場所
ドリップトレイは一箇所だけではありません。ラック構成にもよりますが、次の四箇所が一般的です。
| 設置位置 | 受けるもの | 使えるスペース |
|---|---|---|
| ラック底部 | ラック全体の最終防衛線。上から流れ落ちてきた液を受ける | 最も余裕があり、およそ 30~50 mm |
| 接続部(冷却配管とクイックディスコネクト) | 挿抜部と接合部。漏液の可能性が比較的高い箇所 | 配管とカプラの配置による |
| モジュール内の最上層 | コールドプレートの直下。熱源と通電部品の両方に最も近い | 四箇所で最も厳しく、モジュール構造による |
| PCB 同層/ドロワー底部 | 基板と同じ層、またはドロワー全体を面で受ける | 浅く、およそ 10~20 mm |

ドリップトレイはラック内で二階層に分かれます。底部に大型が一つ、さらに各計算ノードの下にも一層ずつ。概念図につき実寸比ではありません
設置位置で使える高さが決まり、使える高さでホースの太さが決まります。チューブを選ぶ前に、まずトレイがどの階層に入るかを確認してください。
ドレンホースとトレイの接続
トレイの側壁に穴を開け、そこにホースを通します。あとはラック内部の配線スペースに沿って下へ引き回し、指定の回収ポイントまで導きます。

ノード階層の断面。コールドプレートはクイックディスコネクトで冷却液ホースにつながり、その下にドリップトレイ。ドレンホースはトレイの側壁から出ます。概念図につき実寸比ではありません
このホースと主循環の冷却配管は役割がまったく違い、材料選定の考え方も共通点がほとんどありません。
| 主循環の冷却配管 | ▎ドリップトレイのドレンホース | |
|---|---|---|
| 役割 | コールドプレートへ冷却液を送り、熱を運び出す | 漏れた液を機器から遠ざける |
| 圧力 | ポンプ駆動で全区間が加圧される | ほぼ無加圧。重力で流す |
| 管径 | 流量から決める | トレイに残った高さから決める |
| 材料で効くところ | 耐圧、冷却液適合性、耐熱 | 薄肉でも潰れない、曲げやすい、難燃、絶縁 |
無加圧だからといって仕様が緩くなるわけではありません。このホースの管径は流量計算から出てくるものではなく、トレイにどれだけ高さが残っているかで決まります。
D社の要件
| 要件 | SRT での対応 |
|---|---|
| 深さ 7 mm のトレイに収まること | 外径 6 mm(内径 5 mm/肉厚 0.5 mm)。穴あけと曲げの余裕を確保 |
| UL 規格への適合 | UL 224 の VW-1 垂直燃焼試験に適合 |
| 難燃 | 難燃グレードを指定。同シリーズの標準グレードに VW-1 はありません |
| 狭いラック内で使えること | シリコーンの復元性により、0.5 mm の薄肉でも曲げた後に管形状を保ち、潰れにくい |
トレイの深さは 7 mm。谷騏がこれまで携わったラックでは、底部の大型集液トレイはおおむね 30~50 mm、モジュール内や U 数下の防護トレイはもっと浅く 10~20 mm 程度です。7 mm は通常の浅型トレイよりさらに一段厳しく、かなり極端な条件に入ります。
ドレンホースはトレイの壁から出るため、外径には穴あけと曲げの余裕が要ります。そこから上限は 6 mm になりました。ただし細ければ細いほどよいわけでもありません。内径が小さくなるほど、運べる水量も流速も落ちます。押しているのは重力だけです。チューブを細くしすぎたうえ、ラック内でワイヤーハーネスを避けるための曲げが加われば、水はトレイから出ていかず溜まります。トレイが満杯になれば溢れ、この一層の防護は意味を失います。
つまり、収まるまで細くすればよいという話ではありません。限られた高さの中で、最も排水効率の高い寸法を選ぶ作業です。排水効率と取り付けスペースの両側から逆算し、最終的に外径 6 mm としました。
シリコーンチューブ SRT の仕様

SRT は押出成形のシリコーンゴム素管です。標準色は白。透明やその他の色はお客様のサンプルに合わせて製作します
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 製品 | シリコーンチューブ SRT(難燃グレード) |
| 本案件の寸法 | 内径 5.0 ±0.1 mm/肉厚 0.50 +0.12/−0.1 mm(外径 6 mm) |
| 内径範囲 | 1 ~ 20 mm |
| 使用温度 | −50 ~ +200°C |
| 絶縁破壊電圧 | ≥20 kV |
| 難燃性 | UL 224 の VW-1 垂直燃焼試験に適合 |
| 硬度 | ショア A 70 ±5 |
| 色 | 標準は白。透明・その他の色はサンプル対応 |
全型番と仕様は製品ページへ:シリコーンチューブ SRT
薄肉の小径チューブで難しいのは公差です。内径 1~7 mm のサイズ帯は標準肉厚がいずれも 0.50 mm で、内径公差は ±0.1 mm、肉厚公差は +0.12/−0.1 mm に収めます。金型条件や冷却条件が少しずれるだけで管壁は片側が薄く片側が厚くなり、薄い側が曲げたときに先に潰れます。この公差を安定して出せて、はじめてこの寸法が使えるものになります。
透明材にはこの用途で実用的な意味があります。配管はラック内部を通るため、現場保守の際にチューブ内に液が残っていないかを、分解せずに目視できます。
ここは先にお伝えしておきます。谷騏は漏液検知センサーを扱っていません。このホースが担当するのは「漏れた後、どこへ導くか」です。検知の層は別で手配してください。
この案件はどこまで応用できるか
水を導くだけのチューブであれば、より安価な選択肢があります。ただしこのホースは電気機械装置の内部に入るため、排水機能に加えて、装置と一緒に安全規格を通る必要があります。難燃、UL、絶縁、耐熱はいずれも審査対象です。価格を比べるのは、仕様が合ってからの話になります。
SRT はこれらを同時に満たします。
- 難燃:難燃グレードは UL 224 の VW-1 垂直燃焼試験に適合。ワイヤーハーネスと並走しても審査を通ります
- 絶縁:絶縁破壊電圧 ≥20 kV、体積抵抗率 2×10¹² Ω·cm。通電端子に沿わせても導電経路になりません
- 温度域:−50 ~ +200°C。ラック内部の温度上昇も環境変化も範囲内です
- 強度:引張強さ 6.9 MPa、切断時伸び 200%、引裂強さ 14.5 kN/m。引っ張りや繰り返し曲げで破れにくい
- 施工性:ショア A 70 ±5 の硬さとシリコーンの復元性で、薄肉でも狭所の曲げ後に管形状を保ちます
- 保守性:サンプル対応で透明材が可能。現場で残液を目視できます
- サイズ:内径 1~20 mm はすべて標準規格。単一サイズのための金型製作は不要です
トレイがラック底部でも、接続部でも、モジュール内でも、判断の順序は同じです。まずトレイの使える高さを測り、そこから外径の上限を逆算し、実際の曲げ経路でその内径が排水できるかを確認します。違うのはスペースだけ。7 mm では選択肢がかなり狭まり、30 mm 以上あれば余裕をもって選べます。