2027年に迫るデータセンターの800VDC化、バスバー絶縁は規格が追いついていない

2026-08-21

データセンターの給電アーキテクチャが、高電圧直流給電(HVDC)へ世代交代を始めています。業界の議論はトポロジー、変換効率、遮断器、コネクタに集中していますが、ほとんど話題にならない部分がひとつあります。バスバー(ブスバー)を覆う絶縁材です。本記事では、800VDC導入の業界スケジュール、2026年2月に改訂されたUL 224で実際に何が変わったのか、そして設計現場がいま何を根拠に絶縁材を選定できるのかを整理します。

1. 800VDCは構想段階を過ぎ、導入スケジュールに入っている

2025年10月、NVIDIAは800VDCエコシステムのパートナーリストを公開しました。半導体・チップ層、電源システム部品層、データセンター電力システム層という三層構成で、部品層にはデルタ電子(Delta)、Bizlink、Flex、LITEONなど、電力システム層にはABB、Eaton、Schneider Electric、Siemens、Vertiv、Hitachi Energyなどが名を連ねています。

COMPUTEX 2026で展示されたNVIDIA MGX 800VDC配電ボード

COMPUTEX 2026のNVIDIAブースに展示されたMGX 800VDCの配電デモ。各社の電源モジュールが800V Hotswap、800V–50V、800V–12Vと仕様ごとに並んでおり、部品層の800V化はすでに実機の段階です。(展示会にて撮影)

ここまで来た理由は、ラックの消費電力にあります。AIチップ1個あたりの消費電力は、まもなく2kWを超えます。Vertivは、ラック電力が300kWを超えるあたりから800VDCが経済的に見合いはじめるとしています。この規模になると、従来の54Vアーキテクチャでは銅の使用量も変換ロスも抑えきれません。デルタ電子の公開資料によると、10kVからGPU側の0.65Vまで降圧する従来の経路では、変換が6段必要になります。これをソリッドステートトランス(SST/半導体変圧器)に置き換えると2段まで減り、中圧交流から800VDCへの変換効率は98.5%に達するとされています。

主要な電源メーカー各社のスケジュールは、次のとおりです。

時期 メーカー 進捗
2025年10月 Eaton OCP Global Summit で 800VDC リファレンスアーキテクチャの試作を発表
2025年10月 ABB NVIDIA と次世代 AI データセンターで協業、2027年の展開を目標
2026年下期 Vertiv 800VDC 製品ラインを投入、NVIDIA Kyber/Rubin Ultra に対応
2026年 Siemens SENTRON 3VD シリーズ 800/1000V 直流配線用遮断器を投入

電圧が変わると、絶縁に求められる条件も変わる

直流の絶縁要件は、交流のものをそのまま当てはめることができません。交流は半サイクルごとに電圧がゼロを通過するため、部分放電はゼロクロスの瞬間に自然消弧する余地があります。直流にはそのゼロ点がなく、いったんアークが立てば持続します。さらに、ラックの電力密度が上がったことで、同じ体積に蓄えられるエネルギーは以前より格段に大きくなりました。液冷アーキテクチャがもたらす湿度条件も、直流環境下では電気化学的マイグレーションを加速させる要因になります。

絶縁層が耐えるべきなのは、電圧の数値だけではありません。運用期間を通じて積み重なるこうした条件も含まれます。当社が800VDCの案件で最初に確認するのも、この点です。

NVIDIAはエコシステム文書のなかで、共通の電圧範囲、コネクタインターフェース、そして800VDC環境における安全実務について、業界で合意を形成する必要があるとしています。前の二つは大手各社がすでに動いています。三つ目については、絶縁クラスや沿面距離、耐電圧認証といった材料レベルの要求には触れられていません。同じ文書を取り上げた業界メディアも、この点を指摘しています。

電力をどう送るかには、すでに担い手がいます。送り届けた先で導体に何を被せるかは、まだ空白のままです。

Vera Rubin NVL72 HPMバスバーと5000A液冷バスバーの展示

同じブースに展示されたVera Rubin NVL72のバスバーと5000A液冷バスバー。本記事が絶縁の対象として扱っているのは、このバスバーです。(展示会にて撮影)

2. 絶縁チューブの認証根拠はUL 224、ただしその耐電圧試験は交流

北米市場で絶縁チューブの製品認証を取るとき、根拠になるのはUL 224です。押出絶縁チューブを対象とする規格で、熱収縮チューブもこの範囲に含まれます。電圧定格は150V、300V、600Vの三段階。ただし、すべての材質がこの三段階を取得できるわけではありません。

材質 表示できる電圧定格
PVC 300V/600V(150V なし)
ポリオレフィン(熱収縮) 150V/300V/600V
PTFE、FEP 150V/300V/600V
PVF2、変性フッ素樹脂、塩素化ポリオレフィン 600V のみ
シリコーンゴム(肉厚 0.711mm 未満) 300V のみ

出典:UL 224 Standard for Safety for Extruded Insulating Tubing, Table 1

この三段階の上限は、長く600Vに据え置かれてきました。それが今年になって動きました。

UL 224第8版で追加されたもの

ANSI/UL 224第8版は、2026年2月13日に発行されました。追加されたオプション定格は、耐紫外線(Sunlight Resistance)と、上限を2,000Vまで引き上げる高電圧定格の二つです。ULが想定用途として挙げているのは、蓄電システム、EV充電設備、太陽光発電、直流マイクログリッド。この定格は、新規の認証にも既存の認証にも適用できます。

耐電圧試験の方法

UL 224の耐電圧試験は、次のように行います。チューブの内側に導体を通し、外側の中央部を金属箔で覆います。両者のあいだに60Hzの正弦波交流電圧を印加し、1分間保持します。その後さらに昇圧し、絶縁破壊に至るまで続けます。

ここで印加するのは交流です。直流の耐電圧手順は、規格に規定されていません。

この違いは、直流用途では実務上の差になって表れます。直流電圧を印加したとき、絶縁体を流れる電流は充電電流・吸収電流・伝導電流の三つの成分に分かれます。前の二つが減衰したあとに残る定常的な漏れ電流こそ、絶縁品質を直接示す値です。一方、交流試験で見ているのは容量性電流です。両者は同じものを測っていません。

設計規格は直流を織り込み、製品試験は交流のまま

絶縁協調の設計規格は、早い段階から直流を取り込んでいます。IEC 60664-1は交流と直流の双方を対象とし、直流は1,500Vまでを扱います。800V直流・汚損度2・材料グループIIIaの条件では、最小沿面距離を8mmとしています。IEC 61439-1表2の対応する数値は12.5mmです。

数値が違うのは、適用するレベルが違うためです。

最小沿面距離 適用対象 根拠規格
8mm 電子回路、基板レベル機器の精密設計値 IEC 60664-1(部品レベル)
12.5mm 配電盤、組立設備の実務設計値 IEC 61439-1(システムレベル)

設計側には拠るべき規格があり、直流も最初から織り込まれています。製品試験のほうは事情が違います。チューブの認証根拠はUL 224であり、その耐電圧試験は交流で行われます。当社が調べた範囲では、ULが800V直流に対応した製品電圧定格の項目を設けた例は、まだ確認できていません。

当社が直流でも試験を一通りやり直したのは、このためです。お客様の800VDC案件は、いま設計が動いています。一方で参照できるデータは交流で止まったままです。規格が追いつくのを待つより、両方の条件で測り、データと試験条件をあわせてお渡しするほうが早い。そう判断しました。

3. Good Giの取り扱い品目と社内耐電圧データ

データセンターの給電経路のどの位置に何を使うか。供給可能な絶縁品目と、社内で測定した耐電圧データを位置ごとに整理しました。以下の数値はすべてGood Giの社内試験室で測定したもので、第三者認証の定格ではありません。試験条件は、お問い合わせいただければ開示します。

3-1 品目と給電経路の対応

バスバー絶縁(中圧受電 → 800VDCバスバー → ラック配電)

給電経路上の位置 品目(クリックで製品ページへ) 材質 使用温度
中圧受電 → SST 一次側 10KV バスバー熱収縮チューブ ポリオレフィン (PE) -40~125℃
中圧受電 → SST 一次側 20KV バスバー熱収縮チューブ ポリオレフィン (PE) -40~125℃
中圧受電 → SST 一次側 35KV バスバー熱収縮チューブ ポリオレフィン (PE) -40~125℃
SST 二次側 → 800VDC バスバー 1KV バスバー熱収縮チューブ ポリオレフィン (PE) -40~125℃
Power Rack → ラック配電 1KV バスバー熱収縮チューブ ポリオレフィン (PE) -40~125℃

型番の1KV、10KV、20KV、35KVは、シリーズを識別するための記号です。そのシリーズが対象とする開閉装置の電圧クラスを表すもので、第三者認証を受けた製品の定格電圧ではありません。

ラック内のワイヤーハーネスと接続部の絶縁

品目(クリックで製品ページへ) 材質 使用温度 収縮比
GHT ハロゲンフリー PE 絶縁熱収縮チューブ ポリオレフィン -55~125℃ 2:1
GDW ハロゲンフリー接着剤付き熱収縮チューブ PE+ホットメルト接着剤 -55~125℃ 3:1
GP-600V-CR 耐寒 PVC 押出チューブ PVC -40~105℃

GP-600V-CRの上限105℃は、本表で最も低い値です。液冷ラックを40℃以内で制御できている環境なら余裕がありますが、高温部にはガラス繊維系の品目をご検討ください。

Vera Rubin 100A Power Whip電源ハーネスとMGX 1RUスライドレールの展示

展示されたVera Rubin 100A Power Whip。ラック内のワイヤーハーネスと接続部も、絶縁チューブが働くもう一つの場所です。(展示会にて撮影)

高温域と特殊耐熱

品目(クリックで製品ページへ) 材質 使用温度
FSHTG H種 難燃高温ガラス繊維チューブ ガラス繊維糸、シリコーン樹脂 -40~260℃
GF-40 ガラス繊維シリコンチューブ ガラス繊維、シリコーン樹脂 -10~200℃
GSRT-70 ガラス繊維シリコンチューブ ガラス繊維、シリコーン樹脂 -10~200℃
GDPTFE PTFE 熱収縮チューブ 四フッ化エチレン樹脂 (PTFE) -65~220℃
GKY KYNAR PVDF 175 熱収縮チューブ フッ化ビニリデン樹脂 (PVDF) -55~175℃
HFEP FEP 200℃ 熱収縮チューブ 四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体 (FEP) -65~200℃
HSRT シリコーンゴム熱収縮チューブ シリコーンゴム -60~200℃

3-2 社内耐電圧試験で確認できた電圧クラス

品目 使用温度 AC 600V 級 AC 1000V 級 DC 800V 級 AC 1500V 級 AC 2000V 級 AC 2500V 級
1KV バスバー熱収縮チューブ -40℃~125℃ X X
10KV バスバー熱収縮チューブ -40℃~125℃
20KV バスバー熱収縮チューブ -40℃~125℃
35KV バスバー熱収縮チューブ -40℃~125℃
GHT ハロゲンフリー PE 絶縁熱収縮チューブ -55℃~125℃ X X X X X
GDW ハロゲンフリー接着剤付き熱収縮チューブ -55℃~125℃ X X X
GP-600V-CR 耐寒 PVC 押出チューブ -40℃~105℃ X X X X X
GSRT-70 ガラス繊維シリコンチューブ -10℃~200℃
GDPTFE PTFE 熱収縮チューブ -65℃~220℃
GKY KYNAR PVDF 175 熱収縮チューブ -55℃~175℃
HFEP FEP 200℃ 熱収縮チューブ -65℃~200℃ X X
HSRT シリコーンゴム熱収縮チューブ -60℃~200℃ X

本表はGood Giの社内試験室で測定した結果であり、第三者認証ではありません。各クラスの印加電圧、電極配置、判定方法については、お問い合わせいただければ開示します。表がAC 2500V級までなのは、今回の試験で設定した範囲がそこまでだったからです。製品の耐電圧上限を示すものではありません。

GSRT-70はガラス繊維の編組にシリコーンを塗布した構造で、UL 224の対象範囲には入りません。本表の結果はほかの品目と同じ社内試験によるもので、UL 224の定格ではありません。

上記のデータは選定の出発点としてお使いいただき、実際の使用条件に照らしてご評価ください。詳細な試験仕様のご確認とサンプルのご依頼は、当社の技術担当までお問い合わせください。

Good Gi社内試験室での耐電圧試験の様子 Good Gi社内試験室での交直流耐電圧試験の様子

試験設備:GW INSTEK GPT-9803 交直流耐電圧/絶縁抵抗試験器(Good Gi 社内試験)

4. 業界が「電力をどう送るか」を議論するなか、当社は絶縁と安全から見ています

800VDCの変換効率、遮断器、コネクタ仕様は、いずれも大手各社が主導して進んでいます。中圧をどう800V直流へ変換するかも、Schneider Electricがソリッドステートトランスと従来型整流の二つの方式を示し、デルタ電子はソリッドステートトランスを軸に据えるなど、方式はまだ固まっていません。どの方式に落ち着くにせよ、バスバーとワイヤーハーネスの外側には絶縁が必要です。ここはどの方式でも変わりません。

その絶縁の層に、いまのところ既製の答えはありません。設計規格は沿面距離を示してくれますが、製品認証のほうは交流試験で止まっています。規格が追いつくまでのあいだ、当社にできるのは、交流と直流の両方の条件で測り、その試験条件を明記して、設計現場が照合できる根拠を残しておくことだと考えています。

Good Giは、このエコシステムに名を連ねる電源メーカーの一社に、長年にわたり絶縁材を供給してきました。

800VDCアーキテクチャの絶縁材を検討されている方は、以下の内容でお問い合わせいただけます。

  • 社内耐電圧試験の報告書(試験条件と測定方法を含む)のご請求
  • 選定のご相談:給電経路のどの位置に、どの品目を使うか
  • サンプルのご依頼、お見積りのご依頼
  • 第三者認証の取得状況と、プロジェクトの日程に合わせた進め方のご相談

ウェブサイトのお問い合わせフォーム、ページ内のメールリンク、各ページのお見積りボタン、いずれからでもご連絡いただけます。技術担当が直接回答いたします。

参考資料・出典

本文の引用内容 出典
UL 224 の電圧定格区分(Table 1) UL 224 Standard for Safety for Extruded Insulating Tubing 第6版(2006-03-06)Table 1
UL 224 第8版で高電圧定格と耐紫外線定格を追加 UL Solutions:Insulating Tubing Testing and Certification
UL 224 第8版の発行日と版次 UL Standards & Engagement:ANSI/UL 224 Edition 8(2026-02-13)
800VDC エコシステム三層のパートナーリスト、絶縁要求への言及なし NVIDIA Developer Blog:Building the 800 VDC Ecosystem for Efficient, Scalable AI Factories(2025-10-13)
SST 変換効率 98.5%、6段を2段に短縮 デルタ電子ニュースリリース:Delta's Power, Cooling and Microgrid Solutions Showcased at NVIDIA GTC
ABB が 2027年の展開を目標 ABB ニュースリリース:ABB to Develop Next-Generation AI Data Centers with NVIDIA
Eaton の 800VDC リファレンスアーキテクチャ試作 Eaton ニュースリリース:Eaton Unveils Next-Generation Architecture
Vertiv の 800VDC 製品ラインを 2026年下期に投入 Vertiv ニュースリリース:From Vision to Readiness — Vertiv Collaborates with NVIDIA on 800 VDC Platform
Siemens の 800/1000V 直流配線用遮断器 Siemens ニュースリリース:Siemens Launches Groundbreaking Portfolio for the Era of Direct Current Technology
中圧から 800VDC へ直接変換する二つの技術路線 Schneider Electric Insights:800 VDC — Powering the Future of AI Data Centers
業界の議論に絶縁クラスと耐電圧認証の詳細が欠けている点 Data Center Frontier:Preparing for 800 VDC Data Centers — ABB, Eaton Support NVIDIA's AI Infrastructure Evolution
直流電圧下の充電・吸収・伝導の三成分 Kikusui America:DC Withstand Voltage Testing
耐電圧試験の判定原則と定常漏れ電流 Vitrek:Dielectric Withstand Test — A Complete Guide to Insulation Safety and Compliance
800V 直流の最小沿面距離 8mm/12.5mm IEC 60664-1 低圧系統の絶縁協調、IEC 61439-1 低圧開閉装置・制御装置組立品(規格全文は有償)

社内耐電圧試験の報告書と選定のご相談

給電経路上の位置、バスバーの寸法、使用条件をお知らせください。適合する品目と試験条件一式を技術担当より回答いたします。お問い合わせフォーム、メールリンク、各ページのお見積りボタン、いずれからでもご連絡いただけます。